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水戸地方裁判所下妻支部 昭和41年(ワ)64号 判決 1968年3月14日

原告 野崎勝利

被告 飯島村緑農業協同組合

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

原告「被告組合が昭和四一年八月二六日茨城県猿島郡岩井町神田山新田倉持為三郎方に招集した臨時総会における原告を組合員から除名する旨の決議は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする」との判決。

被告、主文と同旨の判決。

二、請求の原因

1、原告は、農業協同組合法に基づいて設立された被告組合の組合員であつたものである。

2、被告組合は、昭和四一年八月二六日茨城県猿島郡岩井町神田山新田訴外倉持為三郎方に招集した臨時総会において、原告を組合員から除名する旨の決議を為した。

3、しかしながら右決議は、次に述べる理由によつて無効である。

(1)  農業協同組合法第三七条第三項によれば、組合の総会招集の通知は、その会日から一〇日前までに、その会議の目的たる事項を示してこれをしなければならないものと定められているのに拘らず、被告組合はこれに違背して右臨時総会の招集通知を同年八月一七日付で翌一八日受付の書留郵便で発送し原告には同月二一日到達したものであり、その招集手続は違法無効であつて、これによつて開かれた総会の決議もまた無効である。

(2)  被告組合が原告の除名理由としたのは「(イ)原告が経費の支払いその他組合に対する義務の履行を怠つた、(ロ)組合の事業を妨げる行為をした、(ハ)法令又は定款その他の諸規定に違反し、その他組合の信用を失わせる行為をした」というのであるが、原告は何らこのような行為をしていないから、その除名理由がない。

4、よつて被告組合のした原告の除名決議が無効であることの確認を求める。

三、答弁ならびに主張

1、本案前の主張

(1)  農業協同組合法第九六条によれば、組合の決議につき「総会の招集手続、決議の方法が法令に基づいてする行政庁の処分又は定款若しくは規約に違反することを理由として、その議決の日から一ケ月以内に、その議決の取消を請求した場合に行政庁はその違反があると認めるときは当該決議を取消すことができる」旨が定められている、これを商法の規定を準用する中小企業等協同組合法などと対比して考えれば、農業協同組合の特殊性に鑑み、組合決議に関する紛争は直接司法上の解決方法をとるよりは、むしろ日常指導監督の立場にある行政庁に適切な措置をとらせる法意と解されるから、本件はまず行政庁に不服申立をなすべきであり、これを経ないで直接出訴した本件訴は不適法である。

(2)  仮りに原告主張の請求原因中、右農業協同組合法第九六条の規定により得ないものがあるとしても、総会招集手続及び議決方法の瑕疵を主張することは同条に照らして許されない。

2、請求原因事実の認否

請求原因1、2の事実は認める、同3の事実は否認する。

3、被告組合の総会招集手続は適法である。被告組合は原告主張の臨時総会の招集につき昭和四一年八月一七日に組合所定の掲示場に総会の日時、場所、議題を明示した書面を貼付して公示し、別途同日これと同一事項の内容を記載した書面を全組合員に配布して通知した。原告に対しても勿論同様の方法で自宅に右書面を持参配布し、更に念の為め翌一八日に同一書面を書留郵便で岩井郵便局から発送通知したもので、その招集手続に違法はない。

4、被告組合は右臨時総会につき予めその招集通知において、原告除名に関することを議題とすること及びその提案理由を書面で明らかにし、原告もこれを充分承知したうえで右総会に出席し、弁明の機会を与えられて種々弁解したうえで、総組合員二六名、出席者二六名中、棄権一名、反対一名、賛成二四名の絶対多数で原告を除名する旨の決議が成立したものでその議決方法も適法で何らの無効原因はない。

5、原告に対する除名は、被告組合定款第一二条第三号の「組合員にして組合の事業を妨げる行為をしたとき」及び同条第四号「法令、総会の決議、定款の定、その他の諸規定に違反し又はその他の方法で組合の信用を失わせるような行為をしたとき」に該る行為があつたことを理由としているところ、その具体的内容は次のとおりである。

すなわち原告は昭和三四年から昭和三八年一二月までは被告組合の組合長理事として、その後は理事として組合の管理運営にあたつてきたものであるが、

(1)  昭和三六年五月二九日に岩井町から被告組合のために森林病害虫防除事業用松毛虫薬剤駆除補助金一七、二一二円を受領したにかゝわらず、これを組合員に配付するとか薬剤購入に充てるとかの処置をとらず、ほしいまゝに自己のために費消し

(2)  昭和三八年一二月一日に行われた組合役員改選による変更登記申請に際し、申請に必要な書類に押印を拒み、ために法定期間内に登記手続をなし得ず、組合は過料二、〇〇〇円に処せられた。

(3)  昭和三七年一二月二〇日に、被告組合所有山林約一三八八四二・七六平方メートル(一四町歩)のうち約七四六七七・五七平方メートル(七町五反三畝)を、組合員に図ることなく独断で訴外風連板紙工業株式会社に代金一七、一〇〇、〇〇〇円で売渡す契約を結び、その内金として額面一〇、四〇〇、〇〇〇円の約束手形を受領し、その手形が不渡りとなつたに拘らず、手形上の権利の保全手続或いは契約解除による土地所有権保全の手段をとらなかつたのみならず、右山林売買契約と同時に買主に登記済権利証、委任状等を交付し、組合所有山林をほしいまゝに処分される危険を与えた。

(4)  原告は昭和三八年一二月に組合長を退任したので、組合の資産、損益等の計算を明確にして後任者に事務引継ぎを行わなければならないのに拘らず、これを怠り、指導行政機関の監査の結果、昭和三九年五月九日に次のような条件のもとに一応事務引継ぎをした。

(イ) 組合の財務関係は同年六月一〇日までに整理して総会の承認を得たうえで引き継ぐこと。

(ロ) 前記風連板紙工業株式会社に交付してある登記済権利証等は同年六月一〇日までに取戻して引き継ぐほか、原告から他に交付してある委任状はこれを無効とする処置を直ちに行うこと。

しかるに原告は現在に至つても右各条件を履行せず、殊に右訴外会社に交付した登記済権利証等は、その後第三者の手を転々し、現在は訴外清水多四郎の手許に移り、同訴外人は前記組合所有山林につき適法な権利を取得しているとして右書類の返還には金二、〇〇〇、〇〇〇円の支払いをうけなければ応じないと主張しており、組合に多大の損害を与える結果となつている。

(5)  組合長退任後も、組合所有山林を自らの手で売買しようと考え、後任役員らが全組合員の同意を得て、これを処分しようとするのを妨げている。

(6)  昭和三八年一月一二日頃、同日開催の組合役員会会議録に、同日出席しなかつた役員倉持為三郎、同鈴木盛之助が、出席のうえ議題に異議がないと述べた旨虚偽の記載をなしたうえ組合に備えつけて行使し、

(7)  昭和三八年暮頃、組合所有山林を自己の努力で訴外ポーラ化粧品会社に有利な条件で売渡す契約が成立した旨組合員に説明し、かつその代金受領に他の役員も同道されたいと称して役員三名を同道して上京したが、右訴外会社との間には全く売買の話すらなく、為めに組合から同訴外会社等に事情問合わせなどをする結果となり、組合の信用を傷つけたばかりでなく上京旅費、会合費等で組合に多大の出費を余議なくして損害を与えた。

右のような原告の各行為は、いずれも農業協同組合法第二二条第二項第二号、組合定款第一二条第三、四号に該り、到底農民の協同組織である被告組合の組合員としての適格性も信頼性もないものと認められ、組合員鈴木想作外一五名から除名を目的とする総会招集の請求がなされ、総会で審議の結果、除名されるに至つたもので、右除名決議は有効であり、無効原因はない。

四、被告の主張に対する原告の反対主張

原告の除名理由として被告が主張するところは誤りであり、原告は組合定款等で定めた除名に該る行為をした事実はない。

(1)  補助金を費消したとの主張について

被告組合に交付された松毛虫駆除補助金は、茨城県からの指示に従い、被告組合名義で郵便貯金をしてあり、原告が費消したことはない。

(2)  役員改選に伴う登記手続に際し、書類に捺印しなかつた事実はない。

(3)  組合所有山林を無断で売買契約したとの主張について

被告主張の山林売買契約は、原告が独断で行つたものではなく、役員会の承認を得、かつ組合員の承諾も得て行つたもので、その後総会の承認を求め、かつ上級機関の許可も得ようとしていたところ、訴外会社の代表者が交替したゝめ、手形の不渡り事故を起こすに至つたので右売買契約は取消し、かつ契約に際して交付した登記済権利証等の返還手続をとつていたが返還を得られないうちに原告が境警察署に背任、横領等の疑いで告訴され、証拠品として提出されたまゝとなつている。

(4)  組合長の事務引継ぎについて

原告は組合長退任に際し、資産、損益等を明確にして公表したうえで後任者に引き継いでいる、又訴外清水多四郎との関係は原告は関知しない、被告組合役員が同訴外人と意を通じ原告を陥れるためにした行為で原告には責任がない。

(5)  の事実は否認する。

(6)  の事実も否認する、原告は予め倉持為三郎らの了承を得、かつ出席役員の了解も得て会議録を作成したもので虚偽のものではない。

(7)  の事実は否認する。

五、証拠<省略>

理由

一、被告の本案前の主張について

農業協同組合法第九六条によれば、農業協同組合の組合員が、その総数の一〇分の一以上の同意を得て組合の総会招集手続、議決の方法等が法令又は法令に基ずいてする行政庁の処分又は定款若しくは規約に違反することを理由として、その議決の日から一箇月以内に、その議決等の取消しを請求した場合において行政庁はその違反の事実があると認めるときは当該決議を取り消すことができる旨を定め、組合の総会招集手続、議決方法等に関する紛争について行政庁に不服申立ての途をひらき、行政庁の不服審査による解決を期待していることは明らかであるが、同法条の定めがあるからといつて直ちに農業協同組合の総会、選挙等に関する紛争につき直接司法裁判所に出訴することを禁じたものと解することはできない。すなわち同法の規定は農民の協同組織の発達を促進し、もつて農業生産力の増進と農民の経済的、社会的地位を図ることを目的とする農業協同組合法の立法趣旨に照らし、農民たる組合員間における組合をめぐる争訟につき、その指導監督にあたる所轄行政庁をして簡易迅速な行政不服審査の手続を通じてこれが解決を図らしめるためのものと解すべきであり、法律上の争訟である組合総会の招集手続、議決方法等について直接裁判所に出訴することを禁じたものとまでは到底解し得ないからである、けだしこのように解さないときは右法条に定めた紛争については組合員総数の一〇分の一以上の同意を得られない組合員は、たとえこれによつて不利益を蒙つていても、つねに救済の途をとざされることゝなり、著しく不当な結果を招くからである。したがつて本件訴を不適法と主張する被告の本案前の抗弁は理由がない。

二、原告が農業協同組合法によつて設立された被告組合の組合員であつたこと、被告組合が昭和四一年八月二六日に茨城県猿島郡岩井町神田山新田倉持為三郎方に招集した臨時総会において原告を組合員から除名する旨の決議を為した事実は当事者間に争いがない。

三、原告は右総会招集手続の違法を主張するから考えるに、農業協同組合法第三七第三項は、総会招集通知はその会日から一〇日前までにその会議の目的たる事項を示してこれをしなければならないものと定めているから、その通知とその会日との間に一〇日の日時を介在させなければならないが、右招集通知に関する右法律の規定は、総会に関し予め組合員に会日、目的等を明示して表決に参加する機会を与えるために設けられた訓示規定と解すべきであり、組合が全組合員に会日前にその了知手段をとり、組合員が定められた会日に出席して表決する機会を与えれば、たとえその通知と会日との間に一〇日の日時を介在させなくとも、直ちに違法ということはできず、したがつてこれによつて開かれた総会の決議もまた瑕疵あるものということはできない。

そこでこれを本件についてみるに、成立に争いのない甲第一、二号証によれば、被告は右臨時総会の招集通知を昭和四一年八月一七日付の書面をもつて原告には同月一八日に発送している事実が認められ、会日との間に一〇日間を介在させてはいないが、証人横川寛の証言、原告本人尋問の結果によると、原告は予め右総会の日時、場所、目的等を了知し、自らも右会日に出席し、原告除名に関する決議にも種々弁明の機会を与えられたうえ、その表決に参加していることが明らかであり、右招集手続のかしが総会の決議の効力を左右するものとは認められないから、原告のこの点に関する主張は理由がない。

四、そこで、原告に対する除名理由の存否について判断をすゝめる。

1、成立に争いない乙第六号証、被告組合定款第一二条によれば組合員が次の各項の一に該当するときは、総会の決議を経て除名することができる旨を定めている事実が認められる。

(1)  一年間組合の施設を全く利用しないとき。

(2)  経費の支払その他組合に対する義務の履行を怠つたとき。

(3)  組合の事業を妨げる行為をしたとき。

(4)  法令又は総会の定款その他の諸規定に違反し、その他組合の信用を失わせる様な行為をしたとき。

2、被告は、原告には右定款(3) (4) に該る行為があつた旨主張するからこの点について判断する。

(1)  成立に争いない乙第一号証、原告本人尋問の結果(但しその一部)と弁論の全趣旨によると、原告は昭和三三年五月一八日に被告組合の理事に選任され、同四一年八月二六日までその職にあり、その間昭和三四年頃から同三八年一二月頃までは代表理事として組合長の職を掌つていたものであること。

(2)  成立に争いのない乙第七号証の一ないし三、乙第一三号証の一及び二によると、原告は右組合長の任にあつた昭和三六年五月二九日に、岩井町から組合に対する昭和三五年度森林病害虫防除事業松毛虫薬剤駆助補助金として金一七、二一二円を交付されたにも拘らず、組合のために受入処理をしないで昭和三九年七月二日頃までの間に、自らの使途にほしいまゝに流用費消していたこと。

(3)  成立に争いのない乙第二号証、甲第一七号証と、郵便官署の押印部分の成立に争いがなく、その余も真正に成立したと認める乙第一〇号証及び証人横川寛の証言(但しその一部)被告代表者仲西良一、同倉持為三郎、同林福三郎各本人尋問の結果と、弁論の全趣旨によれば、原告は右組合長在任中である昭和三七年一二月二〇日に、組合所有の山林約七四六七七・五七平方米(約七町五反歩)を組合役員、組合員等にはかることなく独断で訴外風連板紙工業株式会社に代金一七、一〇〇、〇〇〇円で売渡す旨の売買契約を結び、同日その内金名義で同訴外会社から手形金額金一〇、四〇〇、〇〇〇円の約束手形一通の交付をうけると共に、同訴外会社に対して組合所有の山林約一三八八四二・七六平方米(約一四町歩)の登記済権利証、委任状等を交付したが、その後右手形は不渡りとなつたに拘らず、手形上の権利保全手続等もとらず、かつ右登記済権利証等の回収措置を講じなかつたゝめ、権利証等は転々して訴外清水多四郎の手に渡り、同訴外人から組合所有の右山林につき所有権を主張され、かつ右権利証の返還には被告組合から金二、〇〇〇、〇〇〇円の支払を求める旨の催告さえ為されるに至つたのみならず、その後も右山林が第三者に売却処分される虞れがあつたゝめ、組合員ら二五名から昭和三九年四月三日に処分禁止の仮処分申請が為されるに及び、組合及び組合員らに損害を与えるに至つていること。

(4)  成立に争いのない乙第三号証、乙第一三号証の一及び二と、被告代表者倉持為三郎、同林福三郎各本人尋問の結果を総合すると、原告は昭和三八年一二月に組合長の職を退いたので組合の責任者としてその管理運営上必要な組合の関係書類を整備してこれを後任役員に引継がなければならないにも拘らずこれを怠り、昭和三九年五月九日に事務関係については同年六月一〇日までに整理のうえ引継ぐ等の条件で、一応の事務引継ぎをなしたものゝ条件を履行せず同年七月二日に組合員新井二三ほか二四名の請求により農業協同組合法第九四条第一項にもとずき茨城県職員によつて検査の結果、所定書類の不備等の指摘をうけるに及び著しく組合の信用名誉を傷つけるに至つたこと。

(5)  成立に争いのない乙第八号証と、被告代表者倉持為三郎本人尋問の結果によると、原告は被告組合の組合長として昭和三八年一月一二日に組合役員会を開いた際、他に旅行に出て役員会に全く出席しなかつた倉持為三郎が同役員会に組合員代表として出席して役員会の議事に参画したうえ役員会議事録に署名した旨の虚偽の役員会会議録を作成して組合に備えつけのうえ行使していたこと。

の各事実を認めることができる。

右認定にかゝる(2) ないし(5) の事実は、農民の協同組織体たる農業協同組合員としてその信頼関係を破壊するに足りる不信行為といわなければならないのみならず、前示定款に定められた第一二条三、四項に該るものと認めるべきであるから、これを除名理由として原告を除名するに至つたのはやむを得ない事由というべきである。なお被告は他にも除名理由を主張しているが本件全証拠を検討してもこれを認めるに足りない。

3、被告代表者倉持為三郎本人尋問の結果真正に成立したものと認める乙第四号証と同人の供述ならびに証人横川寛の証言、被告代表者仲西良一本人尋問の結果を総合すると、被告組合は右除名理由のもとに昭和四一年八月二六日に開かれた臨時総会において組合員総数二六名中、出席組合員二三名、代理委任状によるもの二名の構成で、原告除名に関する議事を討議し、原告の弁明をも聞いたうえ採決の結果、除名反対一名、賛成二一名の圧倒的多数で原告除名に関する決議が成立した事実が認められる。

右認定事実によれば、右総会における議事手続にも何らの違法が認められない。

五、したがつて被告組合がした原告を除名する旨の決議には何らの違法もなく、これが無効確認を求める本訴請求は理由がないから棄却するものとし、訴訟費用負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 瀧田薫)

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